ハワイクワガタを探せ!

by 虫キチコージ


世界でクワガタを採りに行くとしたら、みなさんはどこを選ぶであろう?インドネシアやタイ、マレーシアといった東南アジアの国をあげる方がほとんどであろう。アフリカや南米も悪くない。さて、クワガタがいる場所を全て回れるとして、最後に訪れる場所はおそらくハワイになるであろう。そこはハワイクワガタまたは別名ハワイハネナシクワガタ(Apterocyclus honoluluensis WATERHOUSEが生息している、クワガタの種類が最も少ない島の一つだ。そんな場所に最近仕事で行くことがあった。そう、私はチリクワでは懲りずに、またしても出張がてら採りに行こうと行動を始めるのであった。


 ま た し て も ・・・

予定より仕事が早く終わり、2時間ばかり時間ができた。採集する時間はないが、子供の頃から一度行ってみたいと思っていたビショップ博物館に行くことにした。ホノルルにあるこの博物館に訪れた方もいるだろう。ハワイの生物相の展示場一部屋にカミキリなどの少数の標本があるだけだ。この博物館、一見昆虫類とは無縁の博物館に見える。

ところで、坂口浩平氏の「図説世界の昆虫」という本をご存じであろうか?この本の中に、何カ所かビショップ博物館所蔵の標本が載っている。私はこの本にハワイクワガタが載っているのを思いだした。ご存じの方もいると思うが、実はこのビショップ博物館、世界有数の東南アジア地区の昆虫類を研究している「昆虫学部」がある博物館なのである。この博物館の裏に約一千三百五十万個体以上の標本が納められているのだ。

せっかくの機会なので、早速行動開始。取引先の社長が観光に連れていってくれるとお誘いがあったが、「博物館に置き去りにしてくれ」と頼む。私が虫キチガイなのは、既に知られている。社長は、博物館まで送ってくれた上に、訪問前に担当者の名前を調べてくれた。社長も学生時代はこの博物館を良く訪れていたそうだ。なんでも最近はリストラで、博物館がボロくなってきているのが残念とのことだった。


 博 物 館 に て

博物館到着。受付で、担当者に会いたいと伝えたところ、電話をして呼び出してくれた。

しばらくして、それらしき中年の男がやってくる。

虫キチ「やぁ、こんにちは!」と陽気に握手する。

担当者「こ、こんにちは・・・、ところで、どちら様ですか?

変な答え方をすると、標本室に入れてもらえないかもしれない。ここはにこにこしながら、彼と一緒に歩き出す。

虫キチ「日本のアマチュア昆虫学者で、虫キチと申します

担当者「あ・・あの、お約束してましたっけ?

虫キチ「あ、いえいえ、仕事でここに来て時間ができたもんですから、是非ハワイの昆虫についてお訊きしたいと思いまして

担当者「あ、そういうことですか

虫キチ「蝶とクワガタに興味があるんですけど、標本とか見せて貰っても良いですか?

担当者「どうぞどうぞ

どうやら、お願いすれば見せてくれもんらしい。過去にもカリフォルニアの博物館の標本室に入れてもらったことがあった。博物館というのはこういう所なのであろうか。


 標 本 室 に て

標本室は、以前カリフォルニアの博物館で入れてもらった標本室のものと同じ感じのものであった。3メートルくらいの高さで幅1メートル、長さは6メートルくらいあるであろうか、レールに沿って移動できる大きな標本棚が数十個ならんで、その中に無数の標本箱が納められている(何で写真写さなかったんだろう?)。鍵のかけられている部屋には、タイプ標本や貴重な標本が納められているらしい。


ハワイ州の蝶、カメハメハアカタテハ。ハワイ諸島にいる数少ない蝶の一つ。

まずは、カメハメハアカタテハとハワイシジミを見せてもらう(私は実は蝶屋)。かつてハワイに蝶は2種類しか存在しなかった。それが最近は外来種が増えており、日本、アメリカ、メキシコなどの蝶達を町中で見かけることができる。日本のアゲハチョウもハワイでは珍しい種類だが、生息している。

そして、ハワイクワガタだ。棚の中から標本箱が一つ取り出される。


ビショップ博物館所蔵の標本箱。右側には、死骸の欠片も集められている。


ハワイクワガタの標本。左下の個体の大顎が長いのが分かりますか?


feminalis型。丸くて艶があって、茶色っぽい。

結局この担当者はハワイイトトンボを研究してるとのことで、残念ながらハワイクワガタの情報については、殆ど得られなかった。今回教えてもらった事は:

結局担当者は他の約束があるということで、30分くらいで標本室から追い出されてしまった。次回はアポイントでも取ってから来るか・・・(といっても、来れるかどうかわからんが)。


 ハワイクワガタについて

「図説世界の昆虫」によると、ハワイクワガタはwaterhousei, munroi, adpropinquanus, varians, honoluluensis, deceptor, feminalisの7種に分けられたり、honoluluensiswaterhouseiの2種に分けられたりするらしい。私が見た感じでは、確かにこれら標本はそれぞれ特徴があるが、別種というより型ではないかと思われる。別種扱いされるのはアメリカ人が得意?とする交尾器による分類によるものであろう、交尾器のプレパラートも標本と一緒に保存されている。

因みにハワイクワガタが樹液から採集されたという記録を見つけることはできなかった。上記feminalis型は牛糞の下から発見されたと言うから、変なクワガタだ。更に変なポイントとしては、ひょっとして洞窟にいるんじゃないか?と思わせる退化した複眼の小ささがあげられる。足と羽の退化も何か意味ありげだ。


 ハワイ諸島について

ハワイ諸島は、蝶屋とクワガタ屋にとっては、種類が少なく、つまらない島だと思う。蝶は2種類、クワガタは1種(若しくはお互いによく似た数種)しか生息しない。一方、他の昆虫類としては、幼虫が肉食になった蛾、ヤゴが陸上生活するトンボ、飛べないカゲロウなど興味ある種類が沢山生息している。ハワイカミキリの仲間はなんと136種類も生息しているのだ。この島に生息している生物は、非常に速いペースで進化していると言われ、ハワイクワガタも時間さえ経てば、飛べないことも手伝って、アッという間に数種類に進化するかもしれない。ただ、残念ながら、環境の保護なしには、この後の発展は期待できないであろう。近い将来ハワイクワガタも採集禁止となるであろうと、博物館の担当者は言う(もっとも、今も棲息地は保護林に限られているようなので採集はできないはずなのだが・・・)。

ハワイにいる昆虫は、全部島ができてから色々な方法で上陸してきたもの達ばかりだ。火山島として太平洋の真ん中に突如現れた歴史も浅いこの島に、ハワイクワガタの祖先がどの様にたどり着いたかは想像の域を越えない。現在考えられる進入ルートは、クワガタの幼虫が入った漂木が東南アジア方面からこの島にたどり着いたというものだ。潮の流れからして、無理な話ではない。


 最   後   に

どういう訳か、チリハネナシとかハワイハネナシとか羽のないクワガタ類に最近縁がある。メタリフェルファンの私としては、あまり興味のないクワガタであったが、調べていくうちに、あまり生態が分かっていないことを知り、チリクワ同様調べたくなってきた。残念ながら今回も時間切れで中途半端なところで終わってしまったが、ハワイであれば将来自分で行けるかもしれない。これから新婚旅行や家族旅行で訪れる人もいるであろう。そんな方はぜひ、カウアイ島へどうぞ。


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