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北米アオジャコウアゲハをめぐる擬態関係について

■アメリカ合衆国に分布するアオジャコウアゲハは、擬態のモデルとしてアメリカの研究者の間で盛んに研究されている種類です。ここでは、その研究の一部を紹介しましょう。


アオジャコウアゲハについて



アオジャコウアゲハ Battus philenor philenor ♂♀

アオジャコウアゲハ(Battus philenor)は、北米に産する、ジャコウアゲハの仲間です。アオジャコウアゲハ属(Battusはおもに南米大陸で栄えていますが、アオジャコウアゲハは数少ない北米のアオジャコウアゲハの仲間です。アオジャコウアゲハは、日本のジャコウアゲハと同じようにウマノスズクサを食草としていて、体内にその毒物を蓄えています。

アオカケスという鳥を使った実験では、一度アオジャコウアゲハを食べた鳥は、二度とアオジャコウアゲハを食べようとしないことが証明されています。また、かなり高い確率で、以下に紹介するアオジャコウアゲハに擬態する蝶たちも食べようとしないことが証明されています。

アオジャコウアゲハの場合、羽の裏の赤い斑紋が警戒色として効いているようです。

アオジャコウアゲハに擬態する種類

北米には、アオジャコウアゲハに擬態するミミックたちが数種類います。



 トラフアゲハ Papilio glaucus ♂♀(黒色型)
メスのみが擬態しているパターン。

 クスノキアゲハ Papilio troilus ♂♀
オスメスともに擬態しているパターン。

 メスクロキアゲハ Papilio polyxenes ♂♀
メスのみが擬態していると言われていますが、一部では、オスの羽の
裏側も擬態の効果があるという研究結果もあります。

 アメリカアオイチモンジ Limenitis arthemis astyanax ♂♀
雄雌ともに擬態するパターン。


ダイアナヒョウモン Speyeria diana ♂♀
雌だけが擬態するパターン。

単一型(monomorphic)と多形型(polymorphic)

アオジャコウアゲハの擬態関係で面白いのは、一部の種類で擬態をしている型と擬態をしていない型の両方が存在する種類(多形型 polymorphic)がいることです。例えば、トラフアゲハの雌には、擬態をしていない雄と同じ黄色型と、アオジャコウアゲハに擬態する黒色型の2型があります。一方、羽の模様が変わらない種類は単一型といいます。


トラフアゲハ Papilio glaucus
黄色型(左)と黒色型(右)のメス

また、アメリカアオイチモンジについては、擬態しているastyanax亜種と擬態しないarthemis亜種の2つの亜種がいます(但し、学者によって、この2つの亜種を違う種類とする場合もあります)。


アメリカアオイチモンジ Limenitis arthemis
arthemis
亜種(左)とastyanax亜種(右)のオス

多形型ミミックとアオジャコウアゲハの分布について

トラフアゲハ、アメリカアオイチモンジともにおもしろいのは、その分布にあります。

まずは、アオジャコウアゲハの分布を見てみましょう。


アメリカ合衆国北東部におけるアオジャコウアゲハの分布

一方トラフアゲハは上記地図の全土に分布しています。但し、黒色型のメスが発生している地域は限られています。黒色型のトラフアゲハのメスの分布はどうでしょう。


トラフアゲハ黒色型のメスの分布

トラフアゲハの黒型の雌の分布は、アオジャコウアゲハの分布とほぼ一致することが分かりますか?また、黄色型と黒色型が発見される地域では、下のような中間的要素をもった雌が捕まることがあります。


黄色型と黒色型の中間的羽をもったトラフアゲハの雌(見にくいかな?)

アメリカアオイチモンジについても、擬態するastyanax亜種はアオジャコウアゲハの分布とほぼ一致します。arthemis亜種とastyanax亜種の分布が重なる境界線では、この2亜種の雑種個体がよく採集されます。

arthemis亜種の♂。    
arthemis亜種に近い雑種♂。
astyanax亜種に近い雑種♂。
astyanax亜種の♂。    
自然界で発生する、アメリカアオイチモンジの雑種

なぜ、アオジャコウアゲハのいないところで、これら蝶達が擬態をやめてしまうのでしょうか?これは、まだ解明されていません。


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