ナンベイダイコクコガネ

自然のしくみって言うのはうまく出来ているもんで、森などで動物が排出した糞を自然に戻す処理班なんてのがいる。彼らは俗にフンチュウ(糞虫)と呼ばれ、有名な種類だとファーブル昆虫記などに出てくるフンコロガシなんかがみなさんの知っているところであろうか。

古代エジプトでは糞球(ふんきゅう)をころがす様を見て、その糞球を太陽に例え、太陽の神扱いされた。発掘される遺跡にもフンコロガシをモチーフとした装飾品がいくつか出てくる。しかし果たして古代エジプト人の人たちがフンコロガシが転がしているものは動物の糞であると知っている人たちがどれほどいたのか。

フンチュウと呼ばれる虫は甲虫の仲間であり、更に詳しく見るとダイコクコガネ、エンマコガネ、マグソコガネなどの仲間で構成されている。本当は他にもハネカクシやセンチコガネなどが入ってくるであろうが、彼らは必ずしも糞だけに集まってくるということはないのでフンチュウ扱いとは完全にならないようだ。

実はみなさんの身近にもフンチュウ達は活躍している。彼らのほとんどは大きくても1cm以下の大きさのため、例え目の前を飛んでいたとしても蠅などにしか見えないであろう。勇気を出して畑や公園に落ちている少し古い犬の糞を棒でひっくり返してみよう(笑)。そこには、臭いながらも新しい世界が見えてくるはずだ。

糞を扱うものと馬鹿にしてはいけない。彼らがいなければ地球上はアッという間に糞まみれになってしまうのだ。

そしてダイコクコガネやエンマコガネに出逢うことが出来たなら、あなたはそのかっこよさに驚くだろう。彼らはミニチュアカブトムシであり、実は私も一時期かれらの虜になってしまった。

さて、これらのフンチュウはその形も格好いいものもいれば、色が非常に綺麗なものもいる。日本や東南アジアに生息するダイコクコガネなどは立派な角などを持つが体の色は大抵黒である。ところがこれが南米大陸になると宝石といわんばかりの色彩になる。その美しさは昆虫類の中でもトップクラスといっても過言ではないと思う。ちなみに彼らは糞を転がすようなことはしない。どちらかというと糞の下に潜り込むタイプだ。

ここに紹介するのはテイオウナンベイダイコクコガネまたは別名テイオウニジダイコクコガネ(Phanaeus imperator)。おそらく世界で最も美しいフンチュウ、いや、甲虫だと思う。アルゼンチンに生息し、これ以外にも緑色の型がある。ここにある写真を見比べるとお分かりになるであろうが、前胸の部分の赤から緑へのグラデーションは見事なもので、また、光のあて方によって色が変わる。体長は約2センチと小さいが、仲間の中では中型といったところか。

色の変わり様も昆虫の中でも珍しい。緑が赤になったり、赤が緑になったりする。構造色でも有名なモルフォチョウでも青→藍→紺→黒といったスムーズな変わり方であるのに、このフンチュウは黄緑と光のスペクトロム並みだ。

また、彼らの名前は「ダイコク(大黒)」や「えんま(閻魔)」、「テイオウ(帝王)」、「オウサマ(王様)」などなど立派な名前が付いている。南米でもこれらの虫は「幸運の虫」とされているそうで、そういわれると確かにこの容貌には何か秘められたパワーがありそうに見えてくる。

見つめているだけで、何かいいことがありそうに思えてくるのは私だけであろうか。


メスは角がない

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