チリをご存じの方は多いであろう。南米の西海岸を南北4千キロ以上に伸びている、世界で一番長い国である。北は南緯18度位から、南は、現地の地図によると、南極まである(世界のどの国にもで認められていないが、チリ人が勝手に自分の国の領土にしている)。まさに亜熱帯から南極まで揃っているめちゃくちゃな国である。ただし、チリがどんなところかを知っている人は以外と少ない。そして、そこにすんでいる昆虫についても、知っている人は少ないであろう。近くに、ペルー、ブラジルなど昆虫類の宝庫があるのに、チリはあまり標本のラベルでも見ることが少ない。

チリの県(Region)は北から順番にI Region, II Region, III Regionと続きXII Regionまである。私が今回滞在したのはVII Regionにあるクリコ(Curico)という町だ。採集したのは、そこから更に南に行ったVIII Regionである。

チリに来る前は、南米なのでペルーやブラジルのような熱帯〜温帯のすばらしい環境であろうと勝手に想像していたのだが、サンチャゴに来てみてがっかり、乾燥しまくっていて昆虫採集には向かない土地に絶望した。どうも風は常に東から西へ吹いていて、貴重な空気中の水分はアンデス山脈でしぼりとられて、アマゾンに流れてしまうらしい。山から雪解け水が流れてくるが、あまり多くない。以外にも植物層は南へ行けば行くほど豊富になっていて(南半球だから日本で言えば北)、昆虫類もIX RegionやX Regionで最も発展しており、色々な種類が採集できるらしい。ん〜ここまで来たのにそこまで遠くに行けない。残念!

実は、チリで昆虫を採集していて、おもしろい事を発見することができた。まずは、アジアと共通の昆虫類が見られることだ。今回訪れたときにおもしろいことに気がついた種類は、チリハネナシクワガタ(Apterodorcus bacchus)とドウイロクワガタ(Streptocerus speciosus)がある。


チリハネナシクワガタ(Apterodorcus bacchus ♀)とドウイロクワガタ(Streptocerus speciosus ♂♂)

パプアキンイロクワガタ♂

左はまさにドルクス系のメスである。右は、気が付かれた方もいると思うが、ニューギニアのパプアキンイロクワガタなどの仲間に似ているのである。これらの2属はチリ以外の南北アメリカでは発見されない。私は当初このチリハネナシクワガタがアメリカンインディアン同様、シベリアの方からアラスカ経由北米に渡り、南に下りてきたものと思っていた。ところが、ドウイロクワガタは同じ様な説明が通りにくいし、なんと言っても北米からチリまで移動してきたならば、北米や他の南米の国々に同じ仲間が少し残っていてもおかしくないはずだ。

この謎を解く一つの「説」は、あのゴンドワナ大陸にある。ゴンドワナ大陸とは、約三億年前から約一億年前まで南半球にあったと考えられる大きな大陸。その後分裂・移動して、南極・南アメリカ・アフリカ・オーストラリアの諸大陸およびアラビア半島・マダガスカル・インド半島・ニューギニアなどになったと言われている。セルジオ氏が言うには、オーストラリア東部、ニュージーランド、チリのブナの森は互いに非常に似ているそうだ。ゴンドワナ大陸がそれぞれの大陸に分裂した後、一部の大陸は南米に衝突してアンデス山脈を作り上げ、そして、アンデス山脈が生物達の大きな「壁」となって、チリ独特の生物相ができあがったのだという。

【チリのクワガタ一覧(順不同)】

Chiasognathus

shoenemanni
mnizcechi
granti
latreillei
beneshi
jousselini

Streptocerus

speciosus

Apterodorcus

bacchus

Sclerustomus

cucullatus
tubercullatus

Pycnosiphorus

caelatus
arrigutti
philippi
fairmairei
vittatus
ariasi
varasi
femoralis
marginipennis
lessoni
virgatus
costatus
germaini
calverti
fasciatus
westwoodi
mandibularis
新種
その他2種類ほど

注意:上記学名は、セルジオ氏の書き記したものを書き写したもの。
正式な綴りなどは、確認が必要です。(確認済みのものもありますが)


< 戻 る >


< チリクワについて >