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標本の作り方

■ここでは標本の作り方を紹介します。標本は、きちんとしたデータを標本と一緒に保存することによって、その蝶の価値が出てきます。


蝶の標本を作るときは、展翅板(てんしばん)という板に、蝶の翅の形を整えて、パラフィン紙や専用の展翅テープなどで押さえて乾燥させて作ります。これを「展翅(てんし)する」といいます。

蝶を標本には学術的価値があります。

まず、種の同定に使うことができます。自宅から離れた場所などで自分が知らない蝶を採集した場合、それを持ち帰り標本にしてから、図鑑などと見比べて種類を調べることができます。特に外国で採集した蝶などは生きたまま日本国内に持ち帰ることはできませんので、唯一の手段となります。蝶の種類を調べるのに採集しないで、撮影しておくという方法もありますが、写真や記憶ではどうしても正確に同定できない種類がいますので限界があります。また、自分で調べても分からない時は、その標本を他の人に見てもらうことも出来ます。

この他に、標本は長期間保存できるという利点があります。標本を保存しておくことにより、体の仕組みなどを後でさらに詳しく調べる、などといったことができます。「普通種だと思っていたのが、よく調べてみると実は新種だった」ということは、時々あることです。最近進んでいるDNAの解析などもこれに含まれます。私がサンディエゴで採集した蝶の一種は、ある年大規模な山火事によりその生息地がほとんど燃えてなくなってしまいました。その時に採集した蝶の標本を、大学などに送りDNAを解析したりしました。標本はあまり古くなるとDNAの抽出が難しくなるようですが、そのうち技術が発達すればそのような問題も解決するしれません。

標本に最も価値を与えるのは、それにつけるラベルです。標本のラベルに種類名や採集地、採集時期を記すことで、その蝶の分布や発生時期をまとめることができます。ある蝶の種類を調べる人が、色々な人が所有している標本のデータをまとめれば、その蝶の発生時期や分布などを把握することができますし、またそのデータが自分が求めている種類のデータであることを、その標本を見ることで確認することもできます。さらに、知らない土地に行った時、もしそこの博物館などに地元で採集された蝶の標本があれば、そのラベルを見ることによって、いつ頃どんな種類を見ることが出来るのかが調べられます。ラベルには将来標本を見た人が、同じ場所に行けるように詳しく書くことが望ましいです。市町村の名前は将来変わることもあり得ますので、山や湖、川など地形の情報を含めると、後の研究者が助かります。

人によっては、ただ標本を集めることを目的にしている人もいます。この場合、学術的な収集ではなく、いわゆる「コレクション」として集めることとなります。色々な蝶を揃えるのも、発見があったりして楽しいものです。また、飾りとして標本を作ると言うこともあります。

ただ集める人でも、一種のみ、又はその仲間をひたすら集める人もいます。ギフチョウのように個体変異が現れる種類は特にこのようなコレクターが多いようです。複数の標本を並べることによって、各個体の特徴が見え、また、その種の基本となる部分も見えてきます(個体変異のページ参照)。ただしこの場合、採りすぎには気を付けた方がよいでしょう。

人それぞれに色々な集め方がありますので、自分の目的を明確にして、目的にそって標本を作っていきましょう。因みに私は、このホームページを完成させるために、「全ての種類を集める」を目標にして、日々いろいろな標本を集めています(小学生の頃から、図鑑を作りたくて、標本を集め続けています)。せっかく採集した蝶ですから、標本は大切に保管しておきましょう。蝶の標本は、保存状況がよければ、半永久的に持ちます。

ではまず、標本を作るのに必要な道具をそろえましょう。

針は蝶の胴体に刺す「昆虫針(こんちゅうばり)」と、展翅をするときに羽を押さえるのに必要な「留め針」が必要です。

「昆虫針」は専門店で販売されているものを購入することをお勧めします。粗悪な昆虫針は、あとで錆びたりして、せっかくの標本を台無しにしてしまうときがあります。
昆虫針の種類は、日本製の「志賀」や海外製の「ナイロンヘッド」などがあります。黒くて目立たず、また、頭が大きくて持ちやすい針もありますし、ステンレス製でしっかりしたものもあります。

針は色々な太さがあるので、蝶の大きさにあった針を使用します。基本的に小さい号数ほど、針が細くなります。また、昆虫針には有頭針(ゆうとうしん)無頭針(むとうしん)があります。無頭針のほうが、目立ちませんが、標本の整理などをするときは有頭針のほうが指に引っかかり、取り扱いやすいです。

昆虫針比較
▲左から志賀製0号針、2号針、4号針、オーストリッツ製2号針
号数によって太さが違います。また、メーカーによって長さも変わることに注意してください。

「留め針」は細くて丈夫なステンレス製のものを選びます。あまり太い針だと、展翅板に大きな穴を開けて傷をつけてしまいます。また、鉄製など錆びる針は、時々展翅板に刺さったまま錆びて、抜けにくくなることがあります。通常留め針には「まち針」が使用されます。
標本を作るときは、沢山の留め針を使用するので、千本ぐらい用意しておくのが良いでしょう。


展翅板

展翅板(てんしばん)は桐(きり)などで出来ている製品を、専門店で買って使用することもできますし(夏だと時々デパートなどで見かけます)、自分で材料を買ってきて作ることも可能です。急に外出先で展翅する必要になったときは、発泡スチロールや段ボールなどで代替もできます。

色々なサイズの展翅版
▲いろいろなサイズの展翅版

展翅板には大きさが色々あるので、展翅する蝶にあった展翅板を使用しましょう。展翅版を選ぶときに気をつけるのは、板の幅と溝の幅です。板の幅はできるだけ蝶の翅より大きいものを選びます。蝶の翅が展翅板から飛び出してしまうと、翅の先が反ったり下がったりして、見苦しくなることがありますし、間違えて翅を傷つけてしまうことがあります。溝の幅は蝶の体にできるだけ近いものを選びます。体が大きいけど翅の小さい蝶、体は小さいけど翅が大きい蝶など色々といますので、よく見てから購入しましょう。色々なサイズをそろえておくと便利です。複数の展翅版をそろえるときは、展翅版の高さにも気をつけましょう。高さがばらばらだと、標本箱に入れたときの蝶の高さもばらばらになってしまいます。

展翅版の溝幅
▲同じ展翅版の大きさでも、溝幅が違うこともありますので注意

それと、展翅板には板が傾斜したものと、平らなものとがあります。一般的に傾斜した展翅板は、生展翅(蝶を採ってきて、そのやわらかい状態で展翅する場合)、そして平らの展翅板は軟化展翅(一度乾かした蝶を軟化してから展翅する場合)や裏面展翅に使用されます。傾斜板を使うのは、生展翅した場合、展翅後に翅が下がってくる事がよくあるからです。

傾斜板と平板
▲傾斜板(左)と平板(右)

また、展翅版の中には、針をさすところがコルクのものと、ペフ板(東レ株式会社が開発した電子線架橋ポリオレフィンフォームの登録商標名)のものがあります。最近はペフ板のものがほとんどです。コルクは昆虫針を刺した後しっかり固定してくれますが、針の抜き刺しの時にやや難があります。しっかり刺さらず、蝶の体の高さを揃えるのに少し苦労します。一方ペフ板は刺しやすい一方、展翅の途中で針が動いてしまうことがあります。特に翅が上げにくい時などは、展翅が終わった後に標本が前方に傾いていたなどといったことがよくおこります。

ペフ板の展翅板コルクの展翅版
▲ペフ板を使用した展翅板(左)とコルクを使用した展翅板(右)

展翅板は長い間使っていると穴だらけになったりしますので、時々メンテナンスする必要があります。→展翅板のメンテナンス

展翅テープ


▲さまざまな展翅テープ

蝶の翅をおさえるのに使用します。最近はいろいろな展翅テープが発売されていますので、色々と試して自分にあった展翅テープを探しましょう。透明フィルムのものは展翅しているときも蝶を楽しめますが、製品によっては鱗粉がはがれてしまう物もあるので注意が必要です。展翅テープが無く、何か他のものを代用するときは、トレーシングペーパーの様なできるだけ薄く、蝶の鱗粉がとれにくい素材ものを選びます。普通紙は蝶を展翅しているときに翅が見えませんし、翅が破れたり、鱗粉がはがれてしまったりしてしまうので、お勧めできません。

前に一度、ケーキを作るときに使うワックスペーパーを使用したときがありましたが、蝶の鱗粉が沢山ワックスペーパーにくっついてはがれてしまったことがありますので、気をつけた方がいいみたいです。

標本箱

展翅した蝶が乾いたら、蝶の標本を標本箱に入れましょう。標本箱は、湿気と害虫が入らないものであれば、基本的にどんな箱でもかまいません。もっとも普及しているものは「ドイツ箱」といって、ガラス蓋の桐で出来た、博物館などで見ることが出来る標本箱です。専門店に行けば、たいてい取り扱っています。ドイツ箱は手製のため、蓋の閉まる方向が決まっていますので閉めるときに気を付けましょう。大抵蓋と本体に番号やマークがついていますので、それらが同じ場所に来るようにして蓋を閉めます。当然、別のドイツ箱の蓋をもう一つのドイツ箱の蓋に使用することは出来ません。
ドイツ箱もできるだけ品質のいいものを使用しましょう。品質の悪いものの中には、時間が経つと下のペフ板がはがれたり、横の白いシートがはがれてきたり、蓋が緩んできたりするものがあります。

そのほかあったら便利なもの

■ピンセット・・・触角の整形などに威力を発揮します。蝶を持ち上げたり、翅を開いたりするときは先のとがっていないピンセットが無難です。一方、触角などの整形などには、先のとがっているピンセットがとてもやりやすいです。

ピンセット

■翅脈針(しみゃくばり)・・・・・蝶の翅を整形するときに使います。翅脈針で翅を動かした後に、まち針でとめます。そのまままち針などで代用できます。

 ■平均台・・・・・ラベルの高さをそろえるときなどに使用します。甲虫の場合は、体の硬さをそろえるときに使用します。

 
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